犬のワクチン接種について

WASAVAのワクチンガイドラインをもとに当院での推奨も交えてご紹介します。

ワクチンの目的は

その子が感染症で苦しまないようにする、あるいは感染しても症状を軽減するという一般的な目的の他に、忘れがちなのが、集団免疫をつけるという目的があります。

医学的に集団の7割以上がある感染症への免疫を獲得していれば、その集団はその感染症が発症したとしてもその蔓延が防げるとされています。一方、集団免疫が低下すると周辺地域や都道府県、国をあげた感染症の蔓延をもたらし自分のおうちの子にも危険が出てくるためワクチン で免疫をつけることは重要になります。

ワクチンにはコアワクチン、ノンコアワクチン、非推奨ワクチンがあります。コアワクチンは、住む地域や生活様式にかかわらず、すべての犬と猫が接種するべきワクチンを指し、ノンコアワクチンはその疾患が存在していない地域、感染リスクが非常に低い犬や猫は接種しなくてもよいとされるワクチンです。


コアワクチンは罹患率(感染する率)や死亡率が高くワクチンで防御できることがわかっているウイルスに対するワクチンで接種が推奨され、ガイドライン上、犬はイヌパルボウイルス (CPV)、イヌジステンパーウイルス (CDV)、イヌアデノウイルス (CAV)、および狂犬病ウイルスのワクチンがコアワクチンに設定されています。
日本では狂犬病予防は90日齢以上の犬が年に1度接種するように法律で定められています。


それぞれのワクチンに含まれる一般的な感染症 についてご紹介します。

犬パルボウイルスワクチン、ジステンパーウイルスワクチン、アデノウイルス ワクチン(5種、6種ワクチン)
母乳を飲んだ子犬は母から移行抗体をもらい短期間では免疫を獲得していますが徐々にきれてくるため、初回ワクチン接種は 3 ~ 4 週間ごとに、コアワクチンを含む混合ワクチンを接種することが推奨されています。生後8週目にはじまり最後の追加接種は生後16週目以降に接種します。このワクチン 間隔は短くても長すぎてもよくありません。6種と5種の違いはコロナウイルスが入るかどうかです。(近年流行った人のコロナとは違います。)犬コロナウイルス(CCV)単独による感染は軽度の症状のみで生後6週齢未満の犬に発生するとされ、ワクチンを接種したとしても予防効果が低く現在はガイドラインで非推奨ワクチンです。よって、当院はこのコロナウイルスが入っていない5種ワクチンを接種しております。

犬の狂犬病ウイルスワクチン(狂犬病予防接種)
日本の法律に従い生後90日齢以上、上記の混合ワクチン接種が終わったあとに狂犬病ワクチンを 年に1 回接種することとされています。

犬用レプトスピラワクチン(7〜10種ワクチンに入るものです。)
レプトスピラは細菌によって感染する感染症で、複数のレプトスピラ血清型がありそれに対応したワクチンがありますが、現在のワクチンにすべての血清型が含まれているわけではありません。また、免疫の持続期間は約 1 年です。
各血清型同志で交差防御(交差反応)といって同一の型ではなくても、他の型の免疫が別の型の免疫とかぶるような作用もあります。

日本では高頻度に発生する地域がありそれ以外の地域では発生がごく限られているため全国的なコアワクチンではありませんが、この病気は罹患すると致死的で、人獣共通感染症のため生活環境を加味して接種すべきと考えます。
8〜10種に含まれるレプトスピラの型は日本では発生がない型(交差反応もなし)であることから当院では7種ワクチン を採用しています。

おまけのつぶやきです。 
ちなみに、私が卒後獣医師になった20年前くらいの状況は、パルボウイルスに感染したパピーの子たちが集団で入院することもめずらしくありませんでした。1kgにも満たない生後1−2ヶ月のパピーさん腕の血管は点滴をつけるのには血管が細すぎるので首の血管に点滴の管を設置して固定するために首から頭にかけて包帯を巻く必要がありました。集中治療をしても数頭のうち1頭くらいは重篤で亡くなってしまうこともあり辛い経験でしたが、今はそのようなことが減っている印象があります。なぜなのか考えた時に、私見にはなりますが、当時と比べて法律も少しずつ動物に良いよう改正され、以前よりパピーが母犬から離される時期が遅くなり母乳から得られる免疫がしっかりつくようになっているのか、動物取扱業の法律も制定されて以前に比べてパピーを取り巻く衛生環境の向上したことなどが背景にあるのかもしれません。



当院は早朝7時から(日曜祝日は9時〜)完全予約制で診療を行なっています。夜間に体調を崩して朝も治っていない場合、すぐ対応できます。(緊急時はすぐにお電話ください)




この記事を書いた人

巡 夏子

大学卒業後、北海道の中核病院で内科や外科診療に携わった後、関東の夜間救急病院で勤務しながら大学病院や2次診療施設で循環器診療を習得。その後、2つの一般病院で診療部長や副院長として診療にあたる。2023年、渋谷区元代々木町に「めぐり動物病院 元代々木」を開院する。