肺高血圧症

失神疲れやすい症状を出すこの病気は文字通り肺血管の血圧が上がる病気です。
猫ではまれで、犬では比較的多く遭遇するこの病気ですが、原因特定が難しい病気です。

肺の血圧とは?
ヒトも犬猫も血液が流れる場所は体循環肺循環の大きく2つに分類されます。
同じ血液が流れているには違いないのですが。

普段測る血圧は体循環の血圧です。                                                        
肺循環は心臓の右側から受け取った血液が肺領域に流れて、酸素交換をした後に左の心臓に送るところまでになります。
本来、肺の血管は全身にくらべてはるかに血圧が低く血液を受け取る能力が高いという特徴があります。
確かに全身に比べると肺の領域は小さいのに、全身からきた血液を一挙に受け入れられるのはすごいですよね。

運動時は特に血液量が増えて壁が薄くて内腔が広い細小動脈という血管が広がり、普段使われていない毛細血管も動員して無理なく一挙に収容するのです。たくさんの血液が一気に入ると普通は血圧が上がってしまうのですが、それを最小限で抑える特徴があります。

肺高血圧とは


しかし、肺高血圧症になると色々な原因で肺の血管、細小動脈の中に血液が流れにくくなり、抵抗ができてしまう状態です。普段の肺動脈圧が平均で12−15mmHgくらいですが、肺高血圧は安静時の平均が25mmHg以上になった状態と定義されています。

症状

 病気の初期だと外から見てわかりませんが、病気が進行し重度になると以下のような症状でます。

肺高血圧が強く疑われる症状

  • 失神(運動や活動時)、他に特定できる原因がない場合
  • 安静時に呼吸困難
  • 呼吸が苦しくなり運動をやめる
  • 右心不全(心臓不全が原因の腹水がある)

肺高血圧を少し疑う症状

  • 安静時でも呼吸が速め
  • 安静時に呼吸が上がる
  • 粘膜の色が白いっぽい あるいはチアノーゼ(紫に近い赤)

上記に加え背景にある原因によって症状が異なります。

原因


犬では原因別に6グループに分けられています。以前は5つでしたが、2020年のガイドラインで改変されました。

グループ1 肺動脈性肺高血圧
グループ2 左心系心疾患によるもの
グループ3 呼吸器疾患から2次的に起こるもの、低酸素症 どちらかあるいは両方
グループ4 肺血栓塞栓症 急性および慢性
グループ5 フィラリア症
グループ6 複数の要因や原因不明

犬で多いのは、グループ2心臓病から起こる肺高血圧症です。小型犬に特に多い僧帽弁閉鎖不全症(僧帽弁粘液腫様変性、弁膜症 様々に言われています)が最も多く、大型犬に多い拡張型心筋症や左側の心臓が悪くなる先天性心疾患(生まれつき)の病気も含まれます。
普段診療していると3の肺自体の病気や低酸素や4血栓の病気を疑うケースにも遭遇しますが、単一の原因だけではないことも多く白黒付けられないことが多く原因を特定するのは難しいとされています。

診断

心エコー検査(心臓超音波検査)で行います。
ヒトではエコー検査で疑われた後に、カテーテル検査で診断しますが、動物はカテーテル検査をするのに全身麻酔が必要ですので行うことはほぼありません。また、原因によって予後や治療がかわってくるのでできる限り原因追求をします。それには血液検査、X線検査(レントゲン検査)、心電図検査、酸素飽和度の測定や動脈血の血液ガス検査を実施します。ホルモン検査、血圧、尿検査が必要になることもあります。低酸素血症でなければCT検査を実施して診断につなげることもあります。

治療

 内科療法が一般的で大きく2つあります。ただ原因が複合してあるケースが多く、何が主原因なのかを見極め治療を選択します。

  • 肺血管拡張薬 内服薬で肺血管を広げて血圧を下げます。数値は緩和しなくても症状が緩和することもあります。

    グループ2の僧帽弁の病気やグループ3の肺疾患であれば肺血管拡張薬は原則使用しません。僧帽弁の病気で肺の血管圧を下げると肺に血液がたくさん流入して良くなるどころか逆に肺水腫という最も良くない状態になる可能性があります。必要と判断した場合も検査数値や投薬後の状態をしっかり観察下で治療する必要があります。
  • 原因となる病気自体の治療
     心臓病や肺疾患はその病気の治療開始あるいは強化すると肺高血圧の所見も緩和することがあります。

    病気の重症度が軽度の頃は症状がないものですが、重度になってくるに従い特徴的な症状が出ます。
    疲れやすい、興奮時や散歩の初めて倒れたりフラフラするなどの症状があった場合は失神を疑う徴候かもしれません。
    心エコー検査(心臓超音波検査)で適切に診断して治療につなげることをお勧めいたします。


    ご不明な点がありましたら起きがるにご相談ください。


引用 Reinero, Carol et al. 2020. Journal of Veterinary Internal Medicine 34(2): 549–73.

この記事を書いた人

巡 夏子

大学卒業後、北海道の中核病院で内科や外科診療に携わった後、関東の夜間救急病院で勤務しながら大学病院や2次診療施設で循環器診療を習得。その後、2つの一般病院で診療部長や副院長として診療にあたる。2023年、渋谷区元代々木町に「めぐり動物病院 元代々木」を開院する。