乳腺腫瘍 猫

犬の乳腺腫瘍は前回の回でお伝えしましたが、猫も同様に発生があります。犬と異なる点が多々ありますので別でご紹介します。
乳腺腫瘍には良性 (非癌性) と悪性 (癌性) があり、診断、治療、管理、予後がかわってきますが、の場合、犬と異なりほとんどの乳腺腫瘍 (80 ~ 96%、85%)は悪性です。

乳腺腫瘍にはいくつかの異なる種類があり、最も一般的なのは腺癌です。骨肉腫なども乳腺に形成される癌の一つになります。

原因

猫の乳腺腫瘍の正確な原因は完全にはわかってないものの、雌ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンによって猫の乳がんのリスクが増加するとされています。ホルモンの影響下で、乳腺の細胞が拡大し、前癌状態に進行し、がんに変化するまで増殖し続けると言われています。

よって、これらの腫瘍の発生率は、ホルモンの状態に影響します。卵巣子宮摘出術を受けた(避妊済み)かどうかに関係し、避妊していない猫は避妊手術を受けた猫に比べて乳腺腫瘍のリスクが7倍高くなります。
早期の避妊は腫瘍の発生を防ぐとされています。

生後6か月未満で避妊手術を受けた猫の乳腺腫瘍の発症リスクは9%ですが、生後7~12か月の間に避妊手術を受けた猫ではリスクが14%に増加します。雄猫が乳腺腫瘍を発症することは稀にありますが、ほとんどありません。

避妊をしていない猫は、避妊手術を受けた猫に比べて乳腺腫瘍のリスクが7倍高い。

年齢と品種も腫瘍の発生に影響します。
乳がんは主に中高齢猫(10~12歳程度)に発生します。
シャム猫とペルシャ猫は多い傾向があるようで、通常、診断年齢が若いとされます。肥満(太っていること)も腫瘍の発生に関与している可能性があります。

症状

乳腺腫瘍の一般的な症状は腹部の皮膚の下にある 1 つ (または複数) のしこり (結節)が触れることです 。それらは乳頭の隣または内部にあり、腫瘤のサイズとその外観はさまざまですが、通常は硬く、結節状です。時折、腫瘤上の皮膚が潰瘍化して出血し、患部を触ると温かく感じたり、痛みを感じたりすることがあります。猫はその部位を過剰に舐めたり毛づくろいしたりする傾向があり、感染すると強い臭いが発生することがあります。

腫瘍が転移(体の他の領域に広がっている)している場合、他の症状が出ることがあります。最も多い転移場所は肺で、その場合は、呼吸困難になったり咳をしたりすることがあります。また、猫は一般的に元気がなく、食べる量が減り、体重が減少することがあります。

診断時には残念ながらすでに複数の腫瘍が存在していることが多いです。

診断

これらの腫瘍は通常、身体検査の際に猫の腹部に沿って単一または複数のできものとしてさわれるため位置や大きさを確認します。できものの上側や下側が皮膚や筋肉とくっついてしまっている場合は固着といいます。同時に腫瘍の種類および良性か悪性かを判断します。

この腫瘍を診断するための一般的な手順は、針吸引 (FNA) です。バイオプシーとも言います。FNA では、注射器で小さな針を使用して腫瘍から細胞のサンプルを直接吸引し、ガラスの板(スライド)上に噴射しそれを染色して顕微鏡で確認します。

乳腺腫瘍の良性悪性は細胞診で判断が難しい場合もあり、場合によっては、FNA の結果明確ではない場合は、腫瘍全体の摘出が必要になる場合があります。(猫の乳腺腫瘍は悪性度が高いため一部の腫瘍をとって検査結果をまっていると手遅れにいなることがあります。)

悪性乳腺腫瘍の転移リスクを考慮し、病期分類(体内の他の部位への転移の可能性を調べる)を推奨する場合もあります。これには、血液検査、尿検査、肺の X 線写真 (X 線)、および場合によっては腹部超音波検査や CT を実施する場合があります。乳腺に関連するリンパ節は、正常に見えても FNA を行う場合もあります。

進行

この腫瘍の進行は、腫瘍の種類と大きさ、転移の有無に依存します。大きな腫瘍 (2 cm を超える) や転移がある腫瘍は予後が不良です。
腫瘍を摘出して病理組織学的検査をして腫瘍細胞が血管に浸潤(腫瘍細胞が血管の中に入っている)していることが示された場合、これも予後不良となります。これらの腫瘍を転移前の小さい段階で検出して治療することにより、長期の生存が可能になります。2 cm 未満の腫瘍の予後は良好とされます。
具体的には、直径 3 cm を超える腫瘍を持つ猫の生存期間の中央値は 4 ~ 6 か月です。直径 2 ~ 3 cm の腫瘍を持つ猫の生存期間中央値は約 2 年、直径 2 cm 未満の腫瘍を持つ猫の生存期間中央値は 3 年以上です。

治療

手術が最も適切な治療法になります。腫瘤が 1 つであるか複数であるかに応じて、片側乳腺切除術 (乳腺組織の片側切除) または両側乳腺切除術 (両側の切除) を実施します。

腫瘍のサイズやその他の要因に応じ、特にこの腫瘍の転移率が高いことを考慮し切除後に化学療法(抗癌剤)を実施するケースもあります。

ドキソルビシンとシクロホスファミドまたはカルボプラチンを使用した併用化学療法は、転移性または切除不能な局所疾患を有する猫の約半数で短期的に治療反応があるとされ、無症状期間を延長し、治癒を遅らせるために腫瘍の切除後に推奨されます。この化学療法薬は、原発腫瘍摘出後、3~4週間ごとに4~6サイクル投与されます。これらのプロトコルに関連する副作用は、食欲不振 (食欲不振) および骨髄抑制 (血球数の低下) です。

保存的手術(完全に取らない手術)を行った場合、66%の猫が手術部位で再発するとされます。
猫の悪性乳腫瘍の再発と生存期間に影響を与える最も重要な予後因子は、腫瘍の大きさ、手術の範囲、組織学的なレベルです。

したがって、乳腺腫瘍は早期の診断と治療が不可欠ですが、最も大事なのは、病気の予防です。

  • 適切な時期に早期に避妊手術をすること
  • 普段から身体表面を触っておくこと。こちらは乳腺の腫瘍に限らず皮膚の腫瘍を早期に見つける上でも重要になります。


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この記事を書いた人

巡 夏子

大学卒業後、北海道の中核病院で内科や外科診療に携わった後、関東の夜間救急病院で勤務しながら大学病院や2次診療施設で循環器診療を習得。その後、2つの一般病院で診療部長や副院長として診療にあたる。2023年、渋谷区元代々木町に「めぐり動物病院 元代々木」を開院する。