誤食シリーズ 尖った金属

原因はわからないのですが、春は異物誤食の数が多いデータがあるとされています。

尖った金属異物縫針、ピン、釘などが知られています。釣り針の誤食も猫でも犬でも起こります。

今回は“尖った真っ直ぐの金属の異物を飲んだ犬猫について” 2023年の海外の報告をご紹介します。

今回のデータでは縫針が最も多く、釘を飲んだ犬猫55頭が含まれていました。
異物を内視鏡や外科手術で摘出しますが、内視鏡で摘出できなかった患者さんを外科手術で摘出せずに様子を見た時にどのくらい排泄されるのか、合併症はどのくらいか?を観察した論文です。


縫針のような小さめで真っ直ぐな異物を誤食してしまった時、運が良ければ口から食道、胃、十二指腸を通り小腸領域、大腸領域で肛門まで、いわゆる消化管の中を流れ便と一緒に出てきます。しかしながら、針といった先鋭なものだと、通過中に消化管のどこかに刺さるのではないかと予測されます。この報告でも半分の子達は異物が消化管を流れている途中で消化管を穿孔し、消化管からお腹の中に出てしまっていることが確認されています。例えば肝臓に刺さる、横隔膜に刺さり心臓に刺さるなど恐ろしい事例が報告されています。驚くことに、それらの子たちには数週間、数ヶ月と異物を疑う症状が出ていない場合も多く、謎の貧血として自己免疫疾患を疑われてきた子などもいます。
異物を飲んでしまっているのを見ていない場合は、オーナーが異物を飲んだことに気がつけないため時間が経過してしまい異物が身体のなかで運悪く迷入してしまい症状がでるまで経過した可能性があります。

細い先が尖った針のような異物に関して人医のガイドラインでは合併症 (穿孔など) のリスクが 35% と知られているため、内視鏡による緊急除去が推奨されています。内視鏡で摘出できない場合は毎日、レントゲン検査(X線検査)による監視が推奨されています。異物が大腸(空腸)に入ると80~85%が72時間以内に排出されるとされているようです。人において内視鏡検査ではあらゆる種類の異物は95%摘出可能だったそうですが、今回のこの犬猫のデータでは40%くらいの成功率でした。しかし、この結果は喉や食道の異物を除外した胃や十二指腸の異物限定の結果だっただからかもしれません。
2009年の犬の食道および胃の異物除去に関する研究では 内視鏡での異物摘出は90.2%が成功。2014年の犬と猫の縫い針の摂取に関する研究では 92.9% が成功していると報告があります。
今回の報告で異物が内視鏡で摘出できなかった理由としては、食べ物が胃内に入りすぎていて異物が見えなくなっていた。最初胃にあった異物が小腸の内視鏡が届かないところまで流れていたといった理由でした。


一般的に、内視鏡で摘出できなかった場合、取り出す方法は外科手術になりますが、人間のガイドラインでは、頻繁にX線検査を行って異物の進行を監視し、症状が出てしまった場合や異物が動かない場合は手術をすることが推奨されています。これは72時間に以内に消化管から便として排出されるというデータに基づき、その程度の期間を観察し続けるようです。人のデータでは手術が必要となるケースは1% 未満と言われています。犬猫では手術になるケースはもう少し多く、人医のようにもう少し手術に踏み切るまでに時間をかけるべきという議論もあります。
今回のこの報告では犬猫の異物の平均通過時間は59.2 (±31.4) 時間であり、過去の猫の線状異物に関する報告と大体同じくらいだったそうです。

よって、内視鏡で取れない異物の場合72 時間はX線検査を適宜撮影しながら異物の流れを追うことが推奨されるようです。しかし、待つ場合も穿孔などの合併症のリスクを念頭におく必要がありますが、開腹して取り出すしか選択肢がない場合は注意深く待つということになります。

今回の報告では、内視鏡で摘出できなかった異物を様子を見た場合にどうだったかという報告で、どの子も合併症はなく異物が排泄され、一部の子は合併症はなかったが異物が動かなく、それ以上は追えていないという状況でした。

鋭利な異物摂取の合併症について、人間の医学では、粘膜潰瘍、穿孔および腹膜炎、膿瘍、出血および瘻孔の形成、消化管外への移動などの合併症が 1% ~ 5% 報告されており、合併症のほとんどは食道異物に続発して発生するそうです。他にもヒトを対象とした研究では、患者さんの 29.5% が異物に関連した合併症を発症しまこれらの異物の 9割 は食道異物であり、胃異物では合併症は 1.9% でした。
今回ご紹介した尖った異物の報告では胃や小腸に限局した異物にフォーカスを当てていたため、明らかな合併症はありませんでした。過去に穿孔率が 17.2% であると報告された以前の報告でも穿孔の大部分は咽頭(喉)または食道で認められ、胃または腸に針が刺さった犬猫は7.7%のみでした。そしてこれらの報告では針の摂取を目撃しており、したがって針が患者の体内にどのくらいの期間刺さっているか確認できていたそうです。咽頭および食道の異物は痛みや不快感が強いことから異物が動いてしまうことが多く緊急内視鏡検査を受けるため様子をみることはありません。異物の場所によって対応が異なります。

針が便と一緒に直腸に存在しています。

異物の対応は飲んだものや場所によって異なりますが、早期に動物病院に相談しなければいけないことには変わりありません。また、摘出ができずに、すぐに外科手術を行わずに経過観察となった場合は、いつまで様子をみるのか、何を注意してみるのかが大切です。

飲んでしまった異物がレントゲンに映るものであれば、毎日検査で動きを確認しましょう。
飲んでしまった異物がレントゲンで確認できない物質であれば毎日便を確認しましょう。
様子をみる目安は72時間くらいかもしれませんが異物の形状によって異なるため獣医師の指示にしたがってください。

データでは1年の中で3月-4月は誤食が多い時期とされます。3月4月は年度の切り替えでお家が何かと忙しいこともあるのかもしれません。まだまだ注意が必要です。


参考:Crinò C, et al. 2023 、Birk et al . 2016 、Birk et al 2016  、Becq et al 2021, L. Papazoglou et al.2003

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この記事を書いた人

巡 夏子

大学卒業後、北海道の中核病院で内科や外科診療に携わった後、関東の夜間救急病院で勤務しながら大学病院や2次診療施設で循環器診療を習得。その後、2つの一般病院で診療部長や副院長として診療にあたる。2023年、渋谷区元代々木町に「めぐり動物病院 元代々木」を開院する。