ヘルニア

診察でよく耳にするこの言葉。聞いたことがある方もいらっしゃるかと思います。
「これは、〇〇ヘルニアです」とお伝えすると、半分以上の方からは腰の?と聞かれます。
おそらく椎間板ヘルニアを連想されているのだと思います。


ヘルニアとは身体の中にあるべきものが本来あるべきところから飛び出してしまった状態を言います。

今回ご紹介するのは他の部位のヘルニアです。

今回来院された12歳のポメラニアさんは小さな頃からあった下腹部のぽっこりした膨らみが10歳すぎて悪化したとのこと。診察では、下腹部の太ももよりの部位に小さな鶏卵くらいの膨らみがありました。若いころはこの膨らみが見た目でわからないくらい小さかったそうです。
かかりつけの先生に鼠径ヘルニアが拡大してきて本当は手術をした方が良いけど心臓が悪いので全身麻酔をかけられないと言われ、どうしたら良いかとセカンドオピニオンで来院されました。


鼠径(そけい)ヘルニアは鼠径という後ろ足の付け根の隙間にあるヘルニアで皮膚の下のため表からはその隙間は見えません。
雄は胎児の時にその穴を通って睾丸が腹部から皮膚へ下降し、雌は子宮からつながる靭帯が通っています。後に隙間は筋膜で塞がります。
鼠径ヘルニアはその隙間が塞がらず、お腹の中の脂肪が飛び出し、隙間が広いと腸や膀胱、避妊していない雌は子宮がその隙間から出てしまいます。指で押すと戻りますが、押しても戻らなくなるのか嵌頓(カントン)ヘルニアという状態で臓器が締め付けられ痛みが出て緊急状態になります。

治療法は外科手術があります。単純にヘルニアの隙間を端と端で縫合して隙間をなくす。隙間が大きい場合は医療用のメッシュを入れて縫うなどがあります。また、嵌頓しておらず隙間が小さい場合は手術をせずに経過をみることもあります。

この子はなぜ悪化したのか
若いときに手術する必要がないくらいの小さな鼠径のヘルニアの隙間が拡大した原因を明らかにし、手術が適応なのかについてご案内することになりました。その原因によっては手術をしても再発リスクが高いため慎重になります。

 各種検査で、心臓や呼吸器は継続治療は必要なものの麻酔ができないレベルではないと判断しました。
筋膜が避けたり弱くなり、手術後に再発を起こしやすくなるような病気(内分泌やホルモンの病気)はありませんでした。
おそらく加齢で筋膜が弱くなったところに慢性の呼吸器疾患で持続的で強い咳で腹圧上がりヘルニアが徐々に大きくなったということが予測されました。

参考文献3より
この鼠径ヘルニアには子宮が入っています
注意:本症例の写真ではありません

手術はすべきか?
 嵌頓ヘルニアではないので緊急ではないものの、隙間が大きいので今後臓器がたくさん入り込んでしまい嵌頓するリスクがあり、また、再発の可能性はゼロではないものの、高くはないと判断して手術をお勧めしました
オーナーは再発リスクがゼロではないことや年齢から半年悩まれましたが、結局は当院で手術を行い無事下腹部の出っ張りは無くなりました。

←お腹のヘルニア(鼠径(そけい)、臍(さい)、腹壁ヘルニア)のイメージ

表面から見るとぽこっと出ているので”しこり”のようにも見えますが、指で押すと戻ることやその場所が特徴ある場所なのでわかりやすいです。
時には内容物が脂肪だけなのか、臓器が含まれるのかエコー検査で確認することがあります。


動物病院で我々が診療で遭遇するヘルニアを列挙すると

椎間板ヘルニア  神経の病気です。首や腰にある神経の傷害を受けて患部の痛みや四肢の麻痺を起こします。
動物ではM.ダックスに多い病気でしたが、今はT.プードルをはじめとした多くの小型犬種で起こります。
体の外からは神経の病変は見えずX線検査でも写らないためMRI検査で診断します。

臍ヘルニア  いわゆる“でべそ”です。へその尾のところの膜が塞がらずにお腹の脂肪が出てしまった状態ですが、穴が大きいと腸が飛び出し”脱腸”になります。大きい場合は表面からぽこっと出ているのが分かります。ヒトでも赤ちゃんで多くあるそうです。
犬や猫では避妊手術や去勢手術と一緒に治すことが多いです。

会陰ヘルニア 会陰はおしりにある部位です。去勢をしていない中高齢の犬でホルモンの影響でお尻の筋肉が薄くなり隙間ができてしまい、そこに脂肪、腸、膀胱が入り込み便が出なくなってしまうこともあります。

その他にも

腹壁ヘルニア 生まれつき腹膜に隙間があるタイプと手術歴があり縫ったところが開いてヘルニアになる腹壁瘢痕ヘルニアがあり、術後の合併症で患部の感染、免疫異常、アレルギーや糖尿病の基礎疾患などで起こるとされています。

横隔膜ヘルニア、心膜横隔膜ヘルニア 横隔膜の隙間を介してお腹の中の臓器が胸の方に入ってしまいます。入る場所が心臓の周りの膜の中だと心膜横隔膜ヘルニアになります。交通事故でなることもありますが、生まれつきのことが多いです。

脳ヘルニア 多く遭遇するものではありません。脳内に出血または腫れがあると、頭蓋内の圧力が高まりその圧力によって、脳を仕切っているシート状の組織にある小さな隙間から脳が側方や下方に押されます。頭蓋骨のなかのことなので表面からは見えません。

ヘルニアと一言で言ってもたくさんの種類があります。

この子のように幼少期からあるヘルニアがここまで悪化ケースはそう多くはないです。
過去の報告では、いずれも小型犬が多く雄の2歳以下の子で腸が壊死してオペする等のリスクが高いという報告や、若い子だけではなく避妊していない雌は子宮小腸がヘルニアに入り込み緊急オペになったという報告がありました。嘔吐などの症状が出て対処をしても早めであれば命を落とす子は少ないようです。

リスクを知った上で手術をするかどうかはご相談になります。
緊急時は速やかに、緊急ではない場合は猶予がありますので納得されて手術を受けていただくといいと思います。

参考文献 
1.Waters, David J.et al. 1993. “A Retrospective Study of Inguinal Hernia in 35 Dogs.” Veterinary Surgery 22(1): 44–49.
2.Teruo Itoh et al. Retrospective Study on Clinical Features and Treatment Outcomes of Nontraumatic Inguinal Hernias in 41 Dogs 2020 Nov 1;56(6):301.
3.Sontas, B Hasan, F T Seval Toydemir, and Özge Erdogan. 2013. “Case Report  Rapport de Cas.” 54.

参考 MSD製薬 MSDマニュアル 家庭版

この記事を書いた人

巡 夏子

大学卒業後、北海道の中核病院で内科や外科診療に携わった後、関東の夜間救急病院で勤務しながら大学病院や2次診療施設で循環器診療を習得。その後、2つの一般病院で診療部長や副院長として診療にあたる。2023年、渋谷区元代々木町に「めぐり動物病院 元代々木」を開院する。