犬のリンパ腫

人、犬、猫でも発生する腫瘍です。
リンパ腫はリンパ系の腫瘍で、基本的にリンパ器官(リンパ節、脾臓や扁桃腺などの)やリンパ管は全身にあるため、全身のあらゆるところに発生し得る腫瘍です。ただ、どこかに単独で発生する場合や全身に発生する場合まで様々です。

今回は犬のリンパ腫についてご紹介します。

犬リンパ腫はよく見られる腫瘍で犬の腫瘍の15から20%を占めるとされます。発生率は犬 100,000 頭あたり 20 ~ 100 頭と推定されています。
正確な原因は不明なものの、中年齢以上の犬に多く遺伝的な関与も言われています。飼い方、育て方、食事などには関係ありませんので、かかってしまっても本人やご家族が悪いということは全くありません。
報告が多い犬種はチャウチャウ、バセットハウンド、テリア系(スコティッシュ、エアデール、ウエスト ハイランド ホワイト、ヨークシャー、ブル テリア)、ゴールデンレトリバー、イングリッシュブルドッグ、ジャーマンシェパード、ビーグル、ロットワイラ、セントバーナード、プードル。一部のリンパ腫の種類ではボクサーも挙げられます。


犬リンパ腫の種類

リンパ腫には種類がありその種類によって予後(病気にかかた時にその病気がどうなるかの見とおし)が違うため、治療法の決定予後予測の大切な情報となります。
・どこに発生したのか?解剖学的な分類(過去はこちらの分類が主体でした)
・どの細胞が腫瘍化しているのか?病理学的な分類(新WHO分類)
などの分類がなされます。

【どこに発生したのか】

多中心型、消化器型、縦郭型、皮膚型、節外型に分類されます。
多中心型は体表面のリンパ節が腫脹するのでご家族が気がつきやすく、発見時に症状がないことも多くあります。一方で、症状がないためご家族は気がついておらず、病院でワクチンを打つ時の身体検査で指摘されて見つかることもあります。消化器型や縦隔型というのはお腹や胸の中にあるので、健康診断で偶発的に見つかることでもなければ症状が出て発見されます。消化器型は食欲不振や下痢や嘔吐。縦隔型は胸に液体が溜まり呼吸不全で発見されます。節外型というのはリンパ節以外の臓器(脳神経・腎臓・鼻・眼など)に発生するタイプです。

リンパ腫のなかでも8割が多中心型とされています。海外の大規模な調査でも多中心型が最大で皮膚型が12%、その他が5%、節外型が17%割でした。(皮膚なども節外型なのですが分類上は皮膚型として別で分類されていることが多いです。)日本の報告では消化器型が4割くらいともう少し多かったです。

【どの細胞が腫瘍化しているのか】

腫瘍化したリンパ球の形態学的特徴とフローサイトメトリーという技法で解析することで分類できます。この方法は近年より用いられ人医のレベルに近づいており、厳密に細かく分類されていますが、以前に主流だった分け方で大まかに分けると低悪性、中程度から高悪性度、B細胞起源、T細胞起源と組み合わせて4種類に分けられます。

多くの犬は多中心型の中悪性度から高悪性度のリンパ腫(より一般的には B 細胞起源)で新WHO分類ではLarge B-cell lymphoma(びまん性大細胞リンパ腫)と言われるものにが一番多いとされます。


症状

リンパ腫が発生した場所によって異なりますが、病期によって無症状の場合もあり多種多様な症状を発現します。
進行するとどの型でも元気消失、食欲不振、衰弱、発熱、呼吸不全などの症状が出ます。T 細胞起源だと高カルシウム血症が出てそれによる症状で気がつかれることもあります。


診断

基本的には腫れているリンパ節や臓器を針で刺して吸引して中の細胞を薄くガラスに吹き付けたものを染色し顕微鏡で確認する細胞診で診断します。種類によっては紛らわしいため確定できないこともありその時は追加でリンパ節を切除生検、臓器の一部を部分生検し、病理組織学的検査、リンパ球クローナリティー検査をして確定診断をつけます。
また、型や病期(病気がどのくらい進行しているか)を確認するため、体の表面のリンパ節が腫れていた場合もその他の部位や臓器に異常がないかX線検査、エコー検査、血液検査で全身精査が必須になります。進行すると肝臓や脾臓にも波及するため肝臓や脾臓の針生検で腫瘍が波及していないか、骨髄で腫瘍化した細胞が体のなかを循環していないか血液検査で異常な細胞の有無を確認します。
これによってステージ分類という病期を確認します。


治療

化学療法(抗癌剤)が第一選択で、CHOP (シクロホスファミド、ドキソルビシン (アドリアマイシン)、ビンクリスチン (オンコビン)、およびプレドニゾン/プレドニゾロン) という抗癌剤をベースにした多剤併用プロトコルが現在標準治療となっています。ほとんどの犬で完全寛解(腫瘍が消えた状態になること。)が得られ、その期間の中央値は 7 ~ 10 か月続き、生存期間中央値は 10 ~ 14 か月となります。治療反応率は8−9割と報告されております。ただ、一度良くなってもその後、再度腫瘍がでてくることが多い、治療反応がよいとされる多中心型でも3年生存率(病気が発覚してから3年経って生きている確率)は0〜25%と低いものになります。無治療だと発見から1−2ヶ月程度で亡くなってしまうとされています。

腫瘍治療のポイントは色々な作用の抗癌剤を組み合わせ(多剤併用)、副作用を最低限で効果を上げるのが鉄則です。1種類の抗癌剤で治療する方法もあるものの、無治療よりは生存期間が延びますが治療としては弱く寛解率や生存期間が悪くなります。

予後
多くの予後因子(病気の経過の良し悪しに影響するもの)が報告されていますが、病期、分類、腫瘍の悪性度、および化学療法への反応が特に重要です。化学療法に反応しない場合は薬剤耐性の(薬剤が効かなくなっている)可能性が示唆されます。最終的には、ほとんどのリンパ腫は薬剤耐性を持つようになるため、薬剤耐性を起こさないようにした治療法や代替治療法(免疫療法や標的療法など)の開発が重要視されていますがいまだ達成されていません。

残念ながら完治が難しい腫瘍ですが、抗癌剤により一定期間寛解すると腫瘍を患っているとは思えないくらい元気です!と嬉しそうに教えてくださる方もいらっしゃいます。一方で治療中は抗癌剤の投与と副作用の有無を血液検査でチェックと毎週のように通院がありますので、おうちの子が極度のストレスを感じやすいタイプ、極度に怖がってしまうなどで治療が難しい、費用面で難しいなど治療が選択できないことがあります。また皆様が一番心配される抗癌剤の副作用は症状がでないものから症状が出るタイプの副作用があります。



抗癌剤を行う時に一番大事にしていることは
副作用を出さない、あるいは最低限にすること。繰り返しますが犬リンパ腫は完治が難しいため副作用が出るほど強い治療にならないように工夫されたプロトコルが世界の獣医療で共通となっています。。治療のメリットを上回るデメリットを起こさないよう、副作用が出ないようにそれぞれの抗癌剤の特徴や状態を把握しそれに沿って薬を調整しながら実施します。それでも副作用が出やすい子、治療反応が悪い子がいますのでそこは予測範疇外になりますが、オーナーにもしっかりリスクをご理解いただいて、病院とオーナーが協力しながら良い状態をたもつよう努めます。良い状態が得られても生存器官は1−2年くらいのことが多く亡くなる前は抗癌剤の効果が得られなくなることが多いです。その1−2年をそんな短い間だけか、と感じるのか、1−2年良い状態で一緒にいられた、と感じるかは人それぞれです。

治療を実施するか悩まれると思います。
しっかり丁寧にご説明し相談してご納得した上で治療をうけられるように務めていますが、ご不明点、気になる点はおっしゃてくださいね。



この記事を書いた人

巡 夏子

大学卒業後、北海道の中核病院で内科や外科診療に携わった後、関東の夜間救急病院で勤務しながら大学病院や2次診療施設で循環器診療を習得。その後、2つの一般病院で診療部長や副院長として診療にあたる。2023年、渋谷区元代々木町に「めぐり動物病院 元代々木」を開院する。