見逃されやすい病気

食欲不振、元気低下、嘔吐・・・

これだけみると腸の病気などを連想してしまうかもしれません。なにか誤食したかな?と思う患者さんもいらっしゃいます。
これからご紹介する病気は、散髪的に上記のような症状が出ても対症療法で治ってしまうので見逃されることもある病気です。

気がつかれないまま治療をしないでいると悪化していき、ついには突如脱水して低血圧性ショックの状態で救急外来を受診し診断されることもあります。

内分泌の病気である副腎皮質機能低下症という病気で、アジソンとも言われます。
機能の低下症の反対に亢進症という病気もあります。副腎皮質機能亢進症という病気もあります。

副腎は、腎臓の近くに位置する小さな対の腺(特定の物質を生成、分泌、貯留する体の器官)です。
腺は外側の皮質と内側の髄質で構成されています。この腺は、さまざまな体の機能を調節し、生命を維持するために必要な 2 つの重要なホルモンを生成します。
2 つのホルモンは、ストレス ホルモンであるコルチゾールと、体内のミネラルであるナトリウムとカリウムのレベルを調節するホルモンであるアルドステロンです。ミネラルの中のナトリウムとカリウムのレベルは、体の体液バランスを維持するために重要です。
これらの腺から出るホルモンの分泌が低下するのが副腎皮質機能低下症です。

副腎は腎臓の頭側にある小さな臓器です。

【原因】

1次性と2次性がありますが、1次性がほとんどで2次性は極めて稀です。
1次性:犬のアジソン病は主に免疫介在性の副腎組織の破壊によって引き起こされます。副腎自体が障害されてホルモンが出なくなります。稀ですが外傷、感染症、または癌によって損傷を受けることもあります。アジソン病は、コルチゾールとアルドステロンが過剰に生成されるクッシング病(副腎皮質機能亢進症)の治療後に発生することもあります。クッシング病の治療に使用される薬が誤って副腎の活動を抑制しすぎたり、副腎に損傷を与えたりすると、コルチゾールとアルドステロンの欠乏が生じる可能性があります。

2次性:副腎にホルモンを出すように命令する脳の重要なホルモン調節因子である下垂体の腫瘍または萎縮などが原因で発生する可能性があります。また、2次性アジソン病は、何らかの理由で犬が長期にわたってステロイド治療を受けており、その治療が突然中止された場合にも発症する可能性があります。この最後の状態は医原性副腎皮質機能低下症として知られており、一般に一時的なものです。

【なりやすい動物】
猫では稀
です。若齢から中齢で多いとされ、中央値は4.8歳ですが、2ヶ月齢から12歳くらいまで報告があり全ての年齢で起こり得ます。
メスの方が多いとされます。
好発犬種(ないやすい犬種)は海外と日本で多少異なりますが、以下の犬種が多いとされますが、その他の犬種でも見つかっています。
プードル、チワワ、ヨークシャテリア、ポメラニアン、ビーグル、スタンダード・プードル、コリー、グレート・デーン、ロットワイラー、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア、ポーチュギーズ ウォーター ドッグ、ビアデッド コリー、ラブラドール レトリバー、レオンベルガー

過去に診断した患者さんではキャバリアの子が糖尿病治療中にアジソンを併発したことがあります。
2つの内分泌の病気で最初は大変でしたが、徐々にコントロールできるようになりました。

【症状】症状は副腎の機能の程度によって様々ですが、消化器疾患腎臓病と間違えられることが多いのは以下のような症状があるからとされています。

  • 元気消失 色々な病気で起こります。すぐに治ってしまうことが多いです。
  • 下痢 消化器疾患と間違えられ、大抵は対症療法で治ります。
  • 嘔吐 消化器疾患と間違えられ、対症療法で直ります。
  • 食欲低下 色々な病気で起こります。
  • 虚弱 色々な病気で起こり、すぐに治ってしまうことも多いです。
  • 体重減少 色々な病気で起こります、突然減るというよりは徐々に落ちていきます。
  • 多飲多尿 腎臓、糖尿病など色々な病気で起こり、間違えられる原因にもなります。
  • 震え 色々な病気で起こりますが、散髪的に震えがきたりするので神経疾患に間違われることもあります。
  • 腹痛 消化器疾患と間違えられます。ホルモンが出ないことで消化管の機能が低下します。

病気が進行してホルモンの出る量が減っていくとストレスに弱くなり、以下のような強い症状が出ます。

  • 吐血 コルチゾールがでないために消化管の膜が弱くなり出る症状です。
  • メレナ、血便 コルチゾールがでないために消化管の膜が弱くなり出る症状です。
  • 衰弱 ストレスに弱くなり起こります。
  • 急性の虚脱 倒れてしまい意識がなくなります。
  • 低体温 体がストレスに対応できなくなります。
  • 徐脈 血圧の維持ができなくなります。
  • ショック 徐脈や脱水、コルチゾールがでないために起こります。

ショックを起こして救急病院で診断されるほど重度な状態はアジソンクリーゼという副腎不全の状態です。

【検査】

  • 血液検査
    診断は合成アドレノコルチコトロピン(コートロシン®️)によるACTH刺激試験と言われる検査です。
    ACTH刺激試験:血液検査でコルチゾールを測る→コートロシン®️を投与→血液検査で再度コルチゾールを測る。
    コルチゾールが基準値を下回る場合に診断の一助となります。

    その他に、血液検査でリンパ球増多(好中球の異常値、好酸球増多など)は大事な所見です。腎前性高窒素血症(BUNが高い)、低ナトリウム、低クロール、高カリウム (ナトリウム/カリウムの比が低い)、軽度の貧血などの異常があることもあります。ナトリウムとカリウムの異常は非定型型アジソンだと起こらないので、注意が必要です。
    低血糖、高カルシウム、低コレステロールなどは稀ですが、起こります。過去に海外の救急の専門医の先生が低コレステロールがキーで気が付くことがあると聞きました。
  • 胸部X線検査:心臓が小さくなっていることがあります。(極度の脱水)
  • 心電図:血液のカリウムが高値で不整脈が出ることがあります。
  • エコー検査:両側の副腎の縮小を認めることがありますが、正常の大きさの時もあるので画像検査で除外しないことが大事です。

【鑑別が必要な病気】 消化器疾患、腎疾患、神経疾患など

【治療】診断できて治療が安定したら予後が良いとされる病気です。原因によりますが、この病気があっても寿命が全うできることがほとんどで、この病気は死因にならないことが多いです。

急性治療
ショック状態で来院した場合は必要に応じ、静脈点滴、ブドウ糖注射、高カリウムの治療、アシドーシスの治療、グルココルチコイド(ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、デキサメサゾン)、ミネラルコルチコイド投与。尿量モニター。消化器症状の治療を行います。

安定後は長期的な治療
治療は完治させるものはなく、ホルモンの補充療法です。
ピバル酸デソキシコルチコステロン; DOCP (商品名: Percorten®-V または Zycortal®) としても知られる、犬のアジソン病の治療用として FDA によって承認された注射薬が使われます。その子の状態に応じて 3 ~ 4 週間ごとに注射され、不足しているミネラルコルチコイドや アルドステロンを補充します。多くの場合、経口グルココルチコイドも補充されます。

DOCP はすべての犬に適しているわけではなく、一部のアジソン病患者には、ミネラルコルチコイドとグルココルチコイドの両方を置き換えるフルドロコルチゾン (商品名フロリネフ®) などの経口薬が最も効果的です。
昔はフロリネフ®️しかなかったのですが、DOCPが使えるようになってから格段に簡単になりました。

診断までは大変なこともありますが、多くの場合、治療したあとは健康な子と同様にすごせます。アジソンクリーゼの後でも、多くの子は通常の生活に戻ります。

普段は病気に見えない子で発見されることがあります。

たまに起こる下痢や嘔吐、元気がない症状などが気になったりした場合は是非ご相談くださいね。

この記事を書いた人

巡 夏子

大学卒業後、北海道の中核病院で内科や外科診療に携わった後、関東の夜間救急病院で勤務しながら大学病院や2次診療施設で循環器診療を習得。その後、2つの一般病院で診療部長や副院長として診療にあたる。2023年、渋谷区元代々木町に「めぐり動物病院 元代々木」を開院する。