犬の心疾患 僧帽弁閉鎖不全症

小型犬は僧帽弁閉鎖不全症(弁膜症ともいいます)という心疾患になりやすく、まだ病気になる前からリスクがあるとされています。(中型犬や大型犬がかからないわけではありません。)

通常は中高齢から発症して徐々に進行ます。進行し症状が出て亡くなってしまう子、進行が緩やかでな子と様々です。発症した子の3割くらいはこの病気で亡くなるとされ、その他はこの病気が重症化せずに他の疾患が死因となります。
極端な言い方をすると、癌などではその種類にもよりますが3割より多い割合で命を落とすでしょう。
それもあってか、教科書にはこの心臓病は慢性の良性疾患と書かれています。

しかし、悪化した場合は良性とは言えないくらい辛い症状が出て亡くなってしまうわけなので、しっかりとしたケアが必要な病気であることは間違いありません。

病気は心臓の弁という部屋と部屋の間にある扉の役割をしている部分に起こります。一番罹患しやすい弁は心臓の左側にある僧帽弁です。通常、血液は一方方向にしか流れませんがこの病気では弁が肥厚し閉まりが悪くなり、その結果弁が閉じている時に血液が進行と逆方向に漏れてしまいます。
その逆流が聴診器で聞こえる心雑音です。一般的に雑音が大きくなると病気が悪化していると言えます。


“米国獣医内科学会(ACVIM)の犬の弁膜症のガイドライン”ではステージ分類とそれぞれの治療指針があります。
ステージがAからDへ進むにつれて重度となります。(この病気にかかりやすい小型犬種は病気がなくてもステージAに分類されます。)

  • ステージB1 弁の異常と血液の逆流は確認できるが症状がない →無治療、定期的な聴診推奨
  • ステージB2 心拡大はあるが、症状がない          →強心剤 ピモベンダンを開始
  • ステージC 呼吸が苦しくなる肺水腫など症状あり。心不全時期→肺の液体を抜く利尿剤を開始
  • ステージD  通常の治療では安定せずに常に状態が悪く入退院を繰り返す

図1:ステージB1
真ん中の丸い陰影が心臓で正常心です。
図2:ステージB2 
弁膜症によって心拡大しています。図3へ
図3:分かり易いように図2に補足しました。赤い点線が上に盛り上がっるように拡大した左心房。青い点線のように縦横に心臓が拡大しています。
図5:僧帽弁弁閉鎖不全症の逆流血液は心エコーで検査で確認できます。
図4:図3に分かりやすいように矢印をつけました。点線が逆流血液です。赤い血液は正常な血液です。

初期(ステージB1、B2)は症状がなく雑音があるだけです。聴診器で聴かないと聴こえませんのでお家でわかることはないでしょう。通常はこの状態が数年続きます。

徐々に進行して逆流が増えるとその分血液を多く前方(体)に送る必要ががるので、心臓が大きくなります。これは心臓が病気に対応している状態と言えます。この時期の後期になると疲れやすい症状が出ることもありますが、犬ではほとんどの場合は症状は分かりません。悪化してくると興奮や運動で発作的に失神(意識がなくなる状態)を起こすこともあります。この時期から拡大した心臓に押されてが出てくる子も多くなります。図3のように心臓が気管を上の方向に押し上げてしまっていることによるものです。

さらに悪化すると逆流の血液量が増え心臓が自分で対応できなくなり左心房という部屋が膨らみその中の圧が高まります。いよいよ左心房の圧が高くなるとその前の方にある場所の圧も上がります。それが肺の血管です。左心房と肺の血管が連結しているので、肺の血管の圧も上がり、いよいよ圧が高くなった時に肺血管の外に液体が染み出し肺水腫という状態になります。
肺は血液の酸素交換をするため、肺水腫になると肺自体が水浸しになりうまく酸素交換ができずに呼吸が苦しくなります。よく溺れているような状態と言われます。肺水腫はすぐに治療しないとそのまま亡くなってしまいます。
この緊急状態は数分くらいで起こり得ますので、昨日まで、いえ、さっきまで普通どおりにしていたのに急に苦しそうにしていると、病院に連れてこられたご家族は本当に驚かれます。
病気というのは何ヶ月もかけてゆっくりと症状が悪化していく場合もありますが、このように急激に症状が出たように見える病気もあります。実際はこの病気も弁で血液が漏れるようになった時、すなわち雑音が出始めてからはゆっくり進行しているのですが、表面上は数ヶ月、何年と元気そうに見えるので気がつかれないことがよくあり、その場合に急激に症状が出たように見えます。

肺水腫になった時から心臓は心不全という状態で、治療しながら1年から1年半生存できるとされています。しかし、ピモベンダンという強心剤の効果が証明された有名な過去の論文では、症状が出るまで無治療だった子達が2年の生存期間だったのに対し、症状が出る前からピモベンダンを飲み始めた子達は3年以上生存期間が延びました

過去にあるオーナー様に心臓病のまま延命なら辛いと言われました。もちろん肺水腫の再発のリスクはあるものの、急性の肺水腫を突破できれば、薬と検診をしっかり続けることでまた通常に近い生活に戻れる子は多くいます。
そして、日本は僧帽弁閉鎖不全症の外科治療で先進国のため、外科治療の選択肢もあります。

以下の点を気をつけていただくのをお勧めします。

  • 健康な時から予防や検診で病院に行く。(病院に行った時に初期でも身体検査(聴診)で予測ができます。)
  • 診断を受けたあとは、適切な頻度の検診を続ける。
  • 症状はなくてもエコー検査で心臓サイズの拡大を確認した時から強心剤ピモベンダンをスタートする。
  • 検診を続けながら安静時呼吸回数*を自宅で数える。

    元気で長生きしてほしいですね。
    ご心配なことがあればご相談くださいね。

    *安静時呼吸回数の数え方
    寝ている時やリラックスしている時の胸の動きを吸って吐いてで1セットとして数える。15秒数えて4を掛けると1分間の呼吸回数に。普段からたまに見てお家の子の回数をチェックしましょう。
    正常は10-30回/分くらいで40回/分以上が異常値になります。
このように安静時呼吸数の測り方をお家で練習していただきます。皆さんしっかり数えて教えてくださいます。

この記事を書いた人

巡 夏子

大学卒業後、北海道の中核病院で内科や外科診療に携わった後、関東の夜間救急病院で勤務しながら大学病院や2次診療施設で循環器診療を習得。その後、2つの一般病院で診療部長や副院長として診療にあたる。2023年、渋谷区元代々木町に「めぐり動物病院 元代々木」を開院する。