食べて欲しい

病気になると食欲が落ちます。一時的なら復活して食べてくれて体重も落ちずに一安心ですが、慢性の病気があるとそうもいきません。

腫瘍や重度の心疾患など慢性の病気がある子は全く食べないわけではないけど、美味しい物しか食べない、食べる時と食べない時があるいわゆる”ムラ食い”のことも多いです。ご家族としては完治は難しくても、とにかく食べてほしいという気持ちで毎日手を変え品を変え、「新しいフードを買ってきては開けたてしか食べなかった」を繰り返し、お家は残ったフードの山になってしまうというお話をよく聞きます。我々もなんとか食べられるものをとご提案するのですが、なかなかうまく行きません。

そんな時に処方するのが食欲増進剤です。

昔は効果が低いものしかありませんでしたが、今は比較的効果的なお薬が出てきているのでとても助かっています。
2種類をご紹介させていただきます。


1つ目はヒトで抗うつ薬で適応されているミルタザピンという飲み薬です。こちらは動物薬はまだありません。
人ではこの薬の副作用に食欲増進作用の記載はありませんが、犬や猫では食欲増進薬として使われています。薬の作用機序から食欲増進・抗悪心・制吐作用が見込まれるとされています。
腎臓病の猫達に3週間投与した海外の報告では、ミルタザピンとそれ以外で食欲増進のスコアがミルタザピンの方が明らかに高いという結果でした。


経皮ミルタザピンの軟膏”ミルタズ”の箱の側面です。
猫の耳に塗る絵と目安量がスケールで描かれています。

薬には副作用の心配がつきものですが、こちらの薬は発揚といって興奮したり鳴いたりする作用があるとされています。これに関しては出る子と出ない子がいますが、量を調整してもらうと気にならなかったと教えてくださる方が多いです。

 グレリン受容体作動薬と言われるもので商品名はエンタイスです。
犬で使用でき、猫ではまだ臨床的にはたくさん使われていませんが、どのくらいの容量で服用すべきかなど報告が出てきています。
ミルタザピンは副反応を利用した薬ですが、こちらの薬は空腹になるホルモンであるグレリンという胃で分泌されるホルモンと同様の作用があり、直接的に食欲を増やすお薬です。成長ホルモン分泌促進作用もあって、筋肉が増えたり体重が増える効果が期待できます。液体のお薬でほとんどの子がお家であげられますが、お家ではあげられなくて週に1度病院に来てスタッフが飲ませていた子もいました。「これ飲ませると食べてくれるので、食べてくれるなら大変じゃないです〜」とおっしゃって1年以上通ってくださっていました。


ミルタザピン錠剤以外は海外で動物薬として認可が降りたお薬なので日本の獣医師はそれを輸入して使用しております。


近年これらの2つの薬が使えるようになったことは本当に画期的なことだと思います。

病気やお薬について気になることがあればご相談くださいね。

この記事を書いた人

巡 夏子

大学卒業後、北海道の中核病院で内科や外科診療に携わった後、関東の夜間救急病院で勤務しながら大学病院や2次診療施設で循環器診療を習得。その後、2つの一般病院で診療部長や副院長として診療にあたる。2023年、渋谷区元代々木町に「めぐり動物病院 元代々木」を開院する。