腎不全の管理

前回からの続きで今回は腎不全の治療(管理)にフォーカスを当てます。
腎不全は血液検査である程度診断できますが、確定診断、原因、病期、予後を知るため、悪化要因を取り除くため、それ以外の各種検査が重要になります。

欠かせない追加の検査

  • 腎臓の形をみたり、腎臓に負担をかける異常がないか腹部エコー検査レントゲン検査を実施します。
  • 血液検査で高カルシウム高リン、電解質(ナトリウム、カリウム、クロール)の異常がないか、貧血がないか確認します。
  • 尿検査尿路細菌感染尿蛋白の存在がないか確かめます。
  • 高血圧はないか血圧測定を行います。
  • 治療の前に特に猫は心臓に異常がないか心エコー検査で確認します。無症状で身体検査で異常がなくても心臓病が隠れていることがあり、そのような子に治療のために点滴をしたら胸や肺に水が溜まってしまい(体液貯留/溢血/うっ血)呼吸不全で状態悪化するリスクがあります。特に腎不全では貧血になりやすく、貧血の時には体液貯留が起こりやすいです。

治療 急性と慢性では治療の目的が少し異なります。

  • 急性腎不全は原因の治療と集中した点滴治療や対症療法になります。
  • 慢性腎不全は日頃のケアが大切です。また、初期での場合は比較的長くゆっくり付き合っていく病気で長期にわたる管理が必要になるため、不必要な薬はストレスをかけてしまいます。
    また、脱水していない状態で病期を決定することが重要になります。(症状はもちろんのこと、IRISステージ分類*を実施し、それにそった治療をする。)
    注意:脱水があれば1−5日ほど静脈内輸液療法でしっかり脱水を補正した後に検査数値を評価すること。
  • 食事管理
    • 水分が取れるのでドライフードに加えてウェット食の追加が推奨されます
    • しっかりと水を飲めて水分補給ができる状況を作ります
    • 蛋白制限に関しては老廃物が蓄積するような(高窒素)進行した腎不全(IRISステージ2から)には一定の効果が確認されているが、早期では体重が減ってしまうため推奨されない(ただし進行が速いと判断された場合は全身状態が悪くなる前に変更することもある。)                                                                        
    • 腎臓処方食:蛋白、リンやナトリウムが制限されたもの。具体的にはIRISのステージ2から推奨とされています。過去は3だったのですが、進みすぎると食欲がなく処方食を食べられずに開始できない子も多いためだそうです。
      猫クレアチニン 1.6-2.8< SDMA 14< /犬 クレアチニン 1.4-2.0<  SDMA 14<
      あくまでその子の状態によって相談しながら決定するのが正解です。
    • リン制限はもっとも効果があるとされ、生存期間が延長することが証明されています
      食事と一緒にリンと結合して体の外に出してくれる薬やサプリも有用です。
  • 脱水への対応として皮下点滴:薄い尿がでて補うために水を飲みますが、初期は飲水や食事で水分補給ができます。進行してくると食欲低下のため食事から取る水分が減る飲水量が脱水に追いつかなくなるなどで普段から脱水するようになり、それによってさらに食欲がなくなるという悪循環に陥りやすくなります。脱水が慢性的の場合は普段から定期的に点滴してあげましょう。脱水が慢性かどうかは獣医師による症状、身体検査、体重減少、血液検査の結果をみて総合的に判断します。通院のストレス軽減のためお家でできる方法があります。
  • 嘔吐や食欲不振に対して
    • 尿毒症では胃酸分泌が増加しているとされ、胃腸炎も起こりやすいとされますが、人ほどは犬猫は潰瘍が起こりにくいとされています。嘔吐があれば積極的に吐き気を抑える薬が推奨されます。飲めない場合は注射薬で対応します。
    • 食欲増進としてミルタザピンという抗うつ剤があり、猫用に耳に塗るタイプがあるので。慢性腎不全の猫で体重が増えた報告があります。(詳細は過去の回でご紹介 https://www.meguriah.jp/983/ )犬も猫も積極的に食欲のきっかけとなる薬を使ってがあげます。
  • 貧血の改善
    • 腎不全では造血ホルモンが出なくなるせいで、非再生性の貧血が起き時には重度になります。造血のための注射薬や造血のための材料となる鉄剤の投与で改善が見込めることが多いです。
  • その他の異常への対応
    • カリウム 低下に対しカリウム 補充:カリウム が低下しやすく、食欲不振や虚弱の原因になります。
    • リン(P)の高値に対しリン吸着剤:予後延長に効果がわかっています。処方食が食べられない子は積極的にサプリを使いましょう。
    • 蛋白尿が出ている場合は内服薬(ACEI:ACE阻害薬、ARB製剤):蛋白尿ではない子では必要ありません。
    • 高血圧がある場合は降圧剤:高血圧は失明にもつながります。

  • 飲水だけで間に合わない脱水がおこる場合は水分補給のための定期的な点滴療法
    • 皮膚の下に点滴する皮下点滴という方法があり入院して点滴するよりはストレスが少ないとされます。
  • その他 高血圧、蛋白尿、低カリウム、低カルシウムの治療があり、必要に応じ治療することが推奨されます。
  • そして、以外に軽視されがちな定期的な数値のモニタです。
    腎臓の数値はもちろんですが、リン、電解質(ナトリウム、カリウム 、クロール)、貧血、血圧は安全に治療を続けるために欠かせません。これをチェックせずに漠然と治療を続けていると、よかれと思って行っていた治療で逆にその子を苦しめてしまうことにも。検査のストレスも加味して検査の頻度は相談できます。
    病気であっても少しでも心地よくなるようケアしてあげたいですね。

*IRISステージ分類:国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)の慢性腎臓病(CKD)ガイドラインです。
日本獣医腎泌尿器学会のHPから見られます(https://www.javnu.jp/guideline/iris_2019/download/iris-pocket-guide-jp.pdf

参考:Canine and Feline Nephrology and Urology Second Edition • 2011
   Sparkes, Andrew H et al. 2016. JFMS 18(3): 219–39.

この記事を書いた人

巡 夏子

大学卒業後、北海道の中核病院で内科や外科診療に携わった後、関東の夜間救急病院で勤務しながら大学病院や2次診療施設で循環器診療を習得。その後、2つの一般病院で診療部長や副院長として診療にあたる。2023年、渋谷区元代々木町に「めぐり動物病院 元代々木」を開院する。