ホルモン疾患 猫の甲状腺機能亢進症

以前健康診断をお勧めした回でご紹介した猫の甲状腺機能亢進症について、もう少し具体的なところを含めてご紹介いたします。

猫の首には体の代謝率を調節するのに不可欠な甲状腺が左右で対になり合計 2 つあります。
甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンを過剰に作り代謝の増加を起こします。この病気は中高齢の猫に発生します。

【原因】

甲状腺機能亢進症では甲状腺が腫大しますが、通常は良性または非悪性の変化です。猫の甲状腺機能亢進症の症例のうち、悪性(癌性)甲状腺腫瘍が関与するのはわずか 1 ~ 2% です。

甲状腺は首にあり、すごく小さく触ってもわかりません。
腫れても自宅でわかることはほぼないと言っていいでしょう。

【かかりやすい猫】

中高齢で発症します。
罹患猫の平均年齢は約12歳です。甲状腺機能亢進症の猫のうち、8歳以下の子は罹患率は低く、10歳未満の猫はわずか約5~30%とされています。

高齢の猫は甲状腺機能亢進症を発症するリスクが高くなります。
品種でかかりやすいといったことはしられていないものの、シャム、バーミーズ、ペルシャ、アビシニアン、トンキニーズ、ブリティッシュショートヘアの品種はかかりにくいとされています。

【症状】

元気・食欲:甲状腺機能亢進症の最も一般的な臨床徴候は、食欲の増加にもかかわらず体重が減ります。
性格・活動:落ち着きがなくなり、不機嫌になったり攻撃的になったりすることもあります。特に夜間に鳴きながら歩き回るといった訴えをオーナーから耳にすることがあります
飲水・排泄:血流が良くなるため飲水量が増え尿量が増加(多飲多尿)する可能性があります。。
消化器症状:時々嘔吐や下痢を起こすことがあります。
外見:毛皮がボサボサに見えることもあります。
病気が進行するにつれて食欲不振がでてくることがあります。

【甲状腺機能亢進症の合併症】

甲状腺ホルモンは心血管系に影響を及ぼします。高血圧や二次性の心筋肥大や心拡大を起こします。その合併症によって起こる症状はとても重度なことが多いです。
甲状腺機能亢進症の猫の約20%が高血圧になるとされ非常に高くなると、眼の奥の網膜出血や網膜剥離が起こり、突然失明する場合があります。網膜剥離をすぐに治療しないと、眼は回復しませんが、見つかった時には手遅れの場合がほとんどです。猫は失明をしてもお家の中を覚えて行動できるため、見えなくなっていても行動の変化にオーナーが気がつけないことが多いとされます。

甲状腺ホルモンで心臓が肥大することがあります。また、高心拍出性の心不全という状況で胸水や肺水腫を起こすことがあります。心雑音を発症することもあります。この変化により機能低下や体液量の増加で心不全が引き起こされます。心不全と高血圧はどちらも、甲状腺機能亢進症を病を適切に治療すれば回復できる可能性があります。

【注意すべき腎不全の併発】

甲状腺機能亢進症と診断された猫の多くは高齢のため腎臓病を併発していることがあります。しかし、甲状腺ホルモンが過剰に出ている甲状腺機能亢進症では病気のために血流が良くなり、腎数値を低下させている可能性があります。すなわち、甲状腺ホルモンが腎臓病(慢性腎不全)を隠してしまっているのです。そのまま腎機能が良いままなら問題はないのですが、甲状腺機能亢進症を治療しないと、高血圧による腎臓への悪影響などから、結果的に腎臓病も悪化することになります。

【診断】

猫の甲状腺機能亢進症の診断は一般に簡単です。総サイロキシン (TT4) と呼ばれる甲状腺ホルモンの 1 つの血中濃度を測定することです。通常、TT4 は非常に高いためそのまま確定診断となります。

しかし、場合によっては、症状や状況から甲状腺機能亢進症が疑われるのに TT4 レベルが正常範囲の上限内にあることがあります。この場合は少し時間を置いて再度測定すると上昇していることがあります。高齢猫は正常でも甲状腺ホルモンが低下してくることが知られているため、正常の上限であれば注意が必要です。

合併症のチェックや治療法を決定するために他の血液検査、尿検査、胸部X線検査、心電図、血圧測定、心エコー検査(心臓超音波検査)などのいくつかの検査を行います。これらの検査は、猫の全体的な健康状態を評価し、合併症がないかどうか、また、治療によって合併症が起こらないために行う検査です。

【治療】

甲状腺機能亢進症の猫のうち、甲状腺癌(ガン)であることは 2% 未満のため、通常は内科療法で治療をすれば予後は良好です。

経口薬。チアマゾールを生涯にわたって投与すると、甲状腺ホルモンの過剰分泌を制御できます。チアマゾールが甲状腺ホルモンレベルを正常に戻すには数週間かかります。副作用では稀ですが消化器症状が起こる子がいます。また、服用後に腎数値が上がる、食欲が低下するなどが起こり得るため、この薬を使用する場合は、1-2か月ごとに簡単な血液検査を実施して、ご自宅での症状を注意深くみる必要があります。

チアマゾールは異常な甲状腺組織を破壊するのではなく、過剰な甲状腺ホルモンの生成を阻止するため、生涯薬を飲む必要があります。また、外科手術で甲状腺を切除することがありますが、内科療法で経過が良い場合がほとんどです。

処方食:ヨウ素制限食(ヒルズ プリスクリプション ダイエット y/d®)を与えると、臨床症状が解消され、甲状腺ホルモン濃度が低下します。しかし、他の食事は一切許されず、おやつもあげられません。お薬じゃないため不安定です。

【予防?】

現在、甲状腺機能亢進症の既知の予防策はありませんが、早期診断・治療によって合併症も起こらずに予後が良いとされています。中高齢の猫は、半年ごとに健康診断を受けることをお勧めしております。7歳以上10歳以下の猫であれば年に一度の血液検査と尿検査を含む健康診断をお勧めします。

悪化すると合併症が怖い甲状腺機能亢進症は早期に発見して治療を開始したいですね

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この記事を書いた人

巡 夏子

大学卒業後、北海道の中核病院で内科や外科診療に携わった後、関東の夜間救急病院で勤務しながら大学病院や2次診療施設で循環器診療を習得。その後、2つの一般病院で診療部長や副院長として診療にあたる。2023年、渋谷区元代々木町に「めぐり動物病院 元代々木」を開院する。